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高温超伝導体の銅酸化物で強磁性ゆらぎを初めて観測―強磁性ゆらぎが高温超伝導を阻害している可能性浮上:上智大学/東北大学/理化学研究所ほか

(2018年8月3日発表)

 上智大学と東北大学、(国)理化学研究所、高エネルギー加速器研究機構、J-PARCセンターの共同研究グループは83日、銅酸化物の高温超伝導体で、2次元の強磁性ゆらぎを初めて観測したと発表した。強磁性ゆらぎが高温超伝導を阻害している可能性をうかがわせる成果という。

 銅酸化物高温超伝導体は一般に、電気抵抗がゼロの超伝導状態になる転移温度が、液体窒素温度(-196℃)よりも高い銅酸化物を指す。結晶構造はぺロブスカイト型と呼ばれる構造をしており、1986年に初めて銅酸化物超伝導体が発見されて以来転移温度は徐々に上昇、現在-140℃程度に上がっている。

 それに伴い、高温超伝導の発現メカニズムを解明する研究が活発になっており、今回の研究もその一つ。

 研究グループはプラスに帯電した正孔を大量に注入したビスマス系銅酸化物を用いて電気伝導特性、磁気特性、熱特性を測定し、正孔濃度と温度状態によって現れる物性相図をまとめた。

 その結果、正孔を大量に注入した銅酸化物で2次元の強磁性ゆらぎを見出した。これは世界で初めての観測で、これまでは反強磁性秩序領域、反強磁性ゆらぎ領域、超伝導領域しか知られていなかったが、今回正孔濃度が高い領域に強磁性ゆらぎが存在することが明らかになった。正孔濃度が増えるに従い、反強磁性から強磁性へと磁性状態が変化することが分かった。

 強磁性ゆらぎは、電子のスピンが互いに同じ向きに整列した強磁性秩序状態から、スピンの向きが時間的に変動する状態を指し、反強磁性ゆらぎは、電子のスピンが互いに逆向きに整列した反強磁性秩序状態から、スピンの向きが時間的に変動する状態を指す。

 銅酸化物では、反強磁性を示す絶縁体物質に正孔(または電子)を注入すると、反強磁性秩序が壊れて超伝導を発現する。超伝導が発現する物質では、反強磁性のゆらぎが観測されている。

 今回の研究成果は、銅酸化物における高温超伝導に強磁性ゆらぎが関わっている可能性があることを示したもので、今後はどのように関わっているかを詳しく調べることを課題としている。