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クローンの出生率落とすクローン胚の新たな異常を発見―ゲノムインプリンティングに破綻:理化学研究所

(2018年7月19日発表)

 理化学研究所の国際共同研究チームは7月19日、クローン動物の出生率を落とす原因となっているクローン胚の新たな異常を発見したと発表した。クローン動物の出生効率の改善や再生医療技術への貢献が期待されるという。

 クローン動物の作製は、有用な形質を持つ動物を増やすことだけではなく、再生医療に向け、患者の体細胞を用いて作る体細胞核移植胚由来のES細胞(多能性幹細胞)の樹立など、さまざまな応用が注目されている。

 しかし、クローン動物が生まれる率は1%程度と非常に低く、ほとんどが胚発生の途中で死んでしまう。この原因に関してはこれまでの研究で、クローン胚の発生を阻害する重要な2つの因子が特定されている。

 1つは、X染色体の不活性化を誘導するXist遺伝子の異常な活性化で、この対策が見出され、マウスのクローンでは出生効率を10%程度まで高めることができている。もう一つの因子は、DNAに結合しているたんぱく質ヒストンの化学修飾の1つで、これが存在するゲノム領域は核移植直後の転写活性化に抵抗性を示す。この対策も見出され、マウスクローンの出生率は1%程度から8%程度にまで向上した。

 研究チームは今回、まず、この2つの阻害要因を同時に取り除く実験を行った。その結果、マウスクローンの出生効率は最大24%に達したが、これは受精胚の出生効率の半分以下であり、ほかに別の因子の存在が考えられた。

 そこで、研究チームはトランスクリプトーム・エピゲノム解析という手法を因子の解析に適用、次世代シーケンサーを用いて、細胞や組織内に存在する発現遺伝子の全体像や、ゲノム上に存在する化学修飾を全ゲノムレベルで網羅的に解析した。

 その結果、遺伝子発現が刷り込み(インプリント)を受けている、いわゆるインプリント遺伝子に関して、ヒストン修飾依存的なインプリント遺伝子群が全てインプリント情報を失っているという、新たなエピゲノム異常を発見した。

 これらのインプリント遺伝子の多くが胎盤の形成や着床後の胚発生に関わる因子であることから、クローン胚の発生異常の原因の一つであると考えられるという。