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皮膚腫瘍の良悪性や腫瘍の種類見分けるAIシステム開発―皮膚科専門医よりも正確な診断可能に:筑波大学ほか

(2018年7月12日発表)

 筑波大学と京セラコミュニケーションシステム(株)は712日、皮膚腫瘍の良性・悪性を高いレベルで見分け、皮膚腫瘍の種類を高い正答率で診断できる人工知能システムを開発したと発表した。診断の補助に用いるシステムだが、専門医よりも正確な診断が行えるという。

 人工知能(AI)による画像の識別には近年、ディープラーニングと呼ばれる手法が広く用いられている。ディープラーニングは人工の脳神経ネットワークを4層以上重ねた多層のAI学習システムで、画像識別では他の手法を圧倒する高い性能が得られている。

 ただ、ディープラーニングによる画像識別は通常1つのカテゴリーごとに最低1,000枚の画像を用いた学習が必要とされており、14種類の皮膚腫瘍を識別できるようにするには14,000枚以上の画像の学習が必要とされる。

 研究グループは今回、これまでの半分以下の枚数の臨床写真で高いレベルの識別ができる診断補助システムを開発した。

 まず、AIに学習させる教師画像として、筑波大学がこれまで蓄積してきた臨床写真の中から皮膚腫瘍の診断が確定したものを中心に収集し、診断違いの写真を除外した質の高いデータセットを作成、使用する画像枚数を半分以下にした。

 また、学習前の画像処理の段階で京セラコミュニケーションシステムがこれまでに蓄積してきた画像解析ノウハウを活かし、様々な工夫を加えた。

 ディープラーニングには現在画像認識の領域で標準的な技術となっているGoogLeNetをベースとして用いた。

 能力を評価するため、開発した診断補助システムと日本皮膚科学会認定皮膚科専門医13名に同じ画像セットを用いて診断テストを実施したところ、皮膚科専門医による良悪性の識別率は85.3%±3.7%であったのに対し、AI診断補助システムの識別率は92.4%±2.1%と有意に高かった。

 良悪性の識別より難しい14種類の腫瘍の詳細な診断の正答率については、皮膚科専門医が59.7%±7.1%であったのに対し、AI 診断補助システムの正答率は74.5%±4.6%であり、こちらもシステムの方が優れていた。

 皮膚腫瘍の良悪性が写真で判定できるようになれば、皮膚科医が不足している地域においても皮膚がんの早期発見が可能となる。研究グループは数年以内に臨床の現場で使用できるものにしたいとしている。