[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

内部自由度バレーの基礎研究で成果―グラフェン超格子デバイスを作りバレー流を観測:物質・材料研究機構ほか

(2018年5月15日発表)

 (国)物質・材料研究機構と群馬大学は515日、量子エレクトロニクスの基本的現象の一つとされる「バレー流」の観測に成功したと発表した。バレー流の応用に向けた基礎研究の進展が期待されるという。

 バレーは、固体結晶内の電子が持つ量子力学的な隠れた自由度、いわゆる、系の内部自由度を指す。電荷やスピンといった自由度のほかに、固体結晶中の電子にはバレーと呼ばれる自由度の存在が古くから知られていた。

 電荷の流れを伴わずに発生するバレー流を情報伝達に利用すれば、IoT(モノのインターネット)に資する低消費電力型の量子エレクトロニクスの実現が、近年予想されるようになった。しかし、バレーの制御は難しく、応用研究は進んでいなかった。

 研究グループは今回、グラフェン超格子デバイスと呼ばれる構造の実験素子を作製し、バレー流の検出を試みた。

 グラフェンは炭素原子が蜂の巣状に並んだ原子一層のシートで、グラフェン超格子デバイスはこのグラフェンに、同じく蜂の巣状の構造を持つ六方晶窒化ホウ素のシートを上下から貼り合わせ、金属電極を取り付けた構造のもの。

 このような超格子構造では、電子はバレーという隠れた自由度を持ち、電荷の移動に伴って電流が生じるのと同様に、バレー流というものが電荷の流れを伴わずに発生することが予測されている。

 研究グループはこの検出を試みた結果、巨大なシグナルとしてバレー流を電気的に検出することに世界で初めて成功した。デバイスのエッジ(端)に局在した電流が現象を支配している量子バレー流の可能性が確認できたという。