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不凍たんぱく質のナゾ解明―高度な凍結制御技術に手がかり:産業技術総合研究所ほか

(2018年5月8日発表)

 (国)産業技術総合研究所と(国)量子科学技術研究開発機構は58日、極寒の環境下に生息する生物が生命維持のために持っている不凍たんぱく質のナゾを解明したと発表した。たんぱく質表面に氷の結晶に似た水分子のネットワークを作り、0℃以下でも氷の結晶成長を抑制して細胞や組織を破壊から守っていることを突き止めた。生鮮食品などを新鮮なまま凍結保存する新技術の開発につながると期待している。

 産総研の津田栄 上級主任研究員らと量子科学研の安達基泰上席研究員らの研究チームが、寒冷な海域に生息するゲンゲ科の魚が持っている不凍たんぱく質「Ⅲ型AFP」を用いて明らかにした。

 この不凍たんぱく質は産総研が2005年に発見したもので ①六角柱構造をした氷結晶の側面(プリズム面)などに結合する平らな表面を持つ ②不凍たんぱく質の中央付近にあるアラニン残基(A20)と呼ばれる化学構造が氷の結晶面に対する結合力と深く関係しているという特徴を持つ。

 そこで研究チームは、アラニンの代わりにロイシンやグリシン、イソロイシンなどのアミノ酸に置き換えた5種類の残基を組み込んだ不凍たんぱく質を作製。これら人工的に改変した不凍たんぱく質について、氷に対する結合力を調べるとともにX線を用いて結晶構造解析を試みた。

 その結果、アミノ酸残基の特定の位置「γ位」にメチル基と呼ばれる化学構造を持つイソロイシンなど3種類のアミノ酸残基を組み込んだたんぱく質が氷との間で強い結合力を示した。このうち結合力がもっとも強かったのがイソロイシンのアミノ酸残基を持つたんぱく質で、分子の表面に氷結晶に似た約50個の水分子からなるネットワークができていることが分かった。そのためこの水分子ネットワークが、氷の表面にある極めて薄い結晶成長界面と瞬時に混ざり合って氷の結晶成長を抑制しているという。

 研究チームは今後、不凍たんぱく質の表面にこうした水分子ネットワークが作られるメカニズムをより詳しく解明し、氷の結晶を極限まで小さくするなどより高度な人工凍結制御物質の開発を目指す。