[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

強い毒持つ「ヒアリ」を迅速に検出する方法を開発―検出キット作り現場テストを全国各地で実施:国立環境研究所

(2018年5月8日発表)

(国)国立環境研究所は58日、強い毒を持つ南米原産のアリ「ヒアリ」を迅速に見つけ出す新たな検出法を開発し、検出キットを作成したと発表した。現在ある方法より遥かに早い2時間強でヒアリかどうかを識別できる。環境研は、全国10の試験研究機関に作った検出キットを配布して5月から各地で現場テストを行い早期実用化を目指すとしている。

 既存の生態系に害を及ぼす外来生物のことを特定外来生物と呼び、ヒアリはその一つで、日本への侵入が分かったのは昨年の6月。尼崎市(兵庫県)内に入ってきた輸入コンテナで見つかったもので、その後東京、横浜などの国際港湾をはじめ全国各地から発見したとの報告が出ている。

 ヒアリは、赤っぽい体長が2.56㎜程度の小さなアリだが、強力な毒を持っていてその針で刺されると火傷をした時のような激しい痛みが生じるとされ、既にその洗礼を受けた人が国内にいるといわれている。

 このような小さなヒアリを目視で他のアリと区別するのは極めて難しく、今後広い範囲に定着して繁殖が進んだ場合には、甚大な被害が生じるおそれがあると環境研は心配している。

 しかし、ヒアリの検出は、アルコール漬けにしたサンプルを専門家に送付して顕微鏡で観察してもらうしか今のところ方法がなく、送付から識別までに数日かかってしまうため、ヒアリの侵入・定着をいち早く見つけて早期の防除を図るには向いておらず、よりスピーディーな発見法が求められている。

 今回の検出法は、ヒアリに特異的に反応する検出用プライマーと呼ぶ短いDNA(デオキシリボ核酸)断片を設計し、そのプライマーとDNA合成試薬を使って実現した。

 具体的には、検査するサンプルをすり潰して得たDNA抽出溶液に検出用プライマーとDNA合成試薬を加えて60℃の温度下に約90分間置くというもの。サンプルの中にヒアリが含まれていると反応溶液全体が副産物のピロリン酸マグネシウムによって白濁化してヒアリの存在が分かる仕組み。サンプルをすり潰してDNAを抽出するのにかかる時間は、およそ40分。スタートから2時間強で結果が出る。

 実験では、ヒアリ1匹と普通のアリ9匹を混ぜたサンプルでも反応溶液の白濁化が起こり、ヒアリが混入していないサンプルでは白濁化が生じないことを確認している。

 このことから環境研は「サンプルの中にヒアリが1匹でも混入していれば、検出が可能であることが判明し、本手法の高い汎用性が示唆された」と自信を見せている。