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高CO濃度下で水消費を増やさずにコメ増収可能―高い光合成能力を持つ多収品種の栽培実験で確認:農業・食品産業技術総合研究機構

(2018年4月16日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は416日、高い光合成能力を持つイネの多収品種「タカナリ」を二酸化炭素(CO2)濃度が高い環境下で栽培して水の消費量を推定したところ、一般的な品種「コシヒカリ」の現CO2濃度下における栽培とほぼ同程度の水消費量であることが分かったと発表した。

 将来の高CO2濃度環境下で水消費を増やさずにコメの収量を大幅に増やせる可能性が示されたとしている。

 今後の人口増加に伴う食料需要の増大に対処する方策の一つとして、高い光合成能力を持ち、収量も高い作物の開発・利用が注目されている。

 高い光合成能力を持つ作物の多くは、気孔が大きく開き、大気から多くのCO2 を取り込む一方で、同時に気孔を通した水の損失も増えることが知られている。特に水稲は水の消費量が多いため品種の転換などに伴う水消費の増加が懸念されている。

 農研機構は今回、茨城県つくばみらい市にあるFACE(開放系大気のCO2濃度増加)実験圃場を使って、高濃度のCO2大気環境をつくり出し、光合成能力の高いタカナリと通常のコシヒカリを栽培し、CO2濃度の違いによる光合成量と水消費量の変化を調べた。

 現CO2濃度は390ppm、高CO2濃度は約50年後に想定されている590ppmとして実験した。

 その結果、タカナリの光合成量は、高濃度下での栽培では現濃度下での栽培の約1.3倍に達した。それに対して、水の消費量である蒸発散量は、現濃度下だとコシヒカリに比べタカナリは約5%多いが、高濃度下では5%程度少なく、現濃度下のコシヒカリとほぼ同程度だった。

 タカナリの蒸発散量が高濃度条件下で減少したのは、CO2濃度が高いと気孔の開度が低くても十分なCO2を取り込めるために気孔の開度が低くなり、結果として蒸発散量が抑制されることによるという。

 これらの調査結果から、タカナリのような高い光合成能力を持つ品種の開発や利用が、将来の高CO2濃度条件下でのコメ増収と効率的な水利用の両方に有効であることが示されたとしている。