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たんぱく質結晶のより高精度な構造解析法への道開く―動力学的回折現象の観察に成功 :横浜市立大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2018年3月22日発表)

 横浜市立大学、東北大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、高輝度光科学研究センター、横浜創英大学の共同研究グループは322、たんぱく質結晶におけるX線の動力学的回折の観察に、世界で初めて成功したと発表した。今後さらにたんぱく質分子の構造解析の高精度化が期待される。

 たんぱく質の立体構造は、たんぱく質結晶を用いたX線回折によって解明されることが多い。結晶によるX線回折は、大きく分けると運動学的回折と動力学的回折の二つからなる。動力学的回折は、入射X線が結晶中で多重散乱を起こす回折で、半導体結晶のシリコンのような高品質な完全結晶で起こる。しかしたんぱく質結晶では、これまで動力学的回折が起きているという明瞭な証拠が得られていなかった。これは、その結晶品質がシリコンなどの高品質な結晶に比べて劣るためなのか、あるいはそもそもたんぱく質結晶では動力学的回折が観察できないのかといった点は長年の課題であった。

 本研究グループは、大型放射光施設フォトンファクトリーおよびSPring-8において、酵素たんぱく質のひとつであるグルコースイソメラーゼ結晶を用いて、回折X線を用いて結晶内の結晶欠陥を観察するX線トポグラフィ測定を行なった。その結果、用いた結晶は欠陥がなく、等厚干渉縞の見られる極めて高品質な結晶であることが分かった。

 このような高品質な結晶を用いて、回折X線の強度のふるまいを測定するロッキングカーブ測定を行い、動力学的回折理論から予想されるふるまいと比較した。振動の周期が、入射するX線の波長によって変化する様子と、結晶の厚さによって変化する様子が、回折物理学に基づく動力学的回折理論と非常に良い一致を示した。これはたんぱく質結晶においても動力学的回折が起こることを示している。

 高品質なたんぱく質結晶を用いた立体構造解析において、従来は考慮されていなかった動力学的回折理論を取り入れることで、回折強度の解析精度の改善につながり、たんぱく質の性質の原理的な理解が期待される。