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アンテナが要らない電磁波計測技術を開発―セシウム原子を使って実現:産業技術総合研究所

(2016年7月11日発表)

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 (国)産業技術総合研究所は7月11日、アンテナを使わずに高い分解能で電磁波の強度を測ることができる新しい電磁波計測技術を開発したと発表した。

 電磁波は、電気と磁気の両方の性質を持つ波のこと。その測定には、アンテナが要る。

 東日本大震災の際には、東北大学の教授らがアンテナから地中に向け電磁波を送って行方不明者の捜索を行っている。

 こうしたアンテナから地中に向けて電磁波を送りその反射波を解析する電磁波の利用は、既に地中の埋設物などの検出に実用になっている。

 しかし、一方で電子機器からは、各種の不要な電磁波が放射されており、多数の電子機器を安全に使用するためには、そうした電磁波を無くしたり、電磁波の影響を受け難くすることが求められている。

 世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関からは、2011年に携帯電話から出る電磁波についての報告書も発表されている。

 今回、その電磁波計測の長年の課題だったアンテナの追放に成功した。産総研では、世界に先駆けての成果といっている。

 原子は、電磁波を受けるとその電磁波の強度に比例した周波数で振動する。これをラビ振動と呼び、その周波数をラビ周波数という。

 この現象を利用するとアンテナを使わなくても電磁波の強度をラビ周波数から求められることが知られており、産総研はセシウムガスをガラスセルに封入し電磁波によって生じるセシウム原子のラビ振動を測定してアンテナ不要の新たな電磁波強度の計測法を開発した。

 新技術は、電磁波を受けてラビ振動するセシウム原子にレーザー光を当て現れるラビ周波数を検出、そのラビ周波数から電磁波強度を算出するというもの。ガラスセルに封入してあるセシウムガスが電磁波のセンサーになる。

 セシウムガスを封入するガラスセルを小型化できるため通常のアンテナによる電磁波強度の計測では不可能な局所的な測定を高い分解能で行える。

 また、ラビ周波数の測定にレーザー光を使うので光ファイバーなどが一切不要で、離れた場所からワイヤレスで測定できるという長所も持っている。