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がん中性子線療法のホウ素薬剤の効果予測可能に―新薬剤の開発や治療計画の最適化に貢献:日本原子力研究開発機構/京都大学/筑波大学

(2018年2月2日発表)

 (国)日本原子力研究開発機構と京都大学原子炉実験所、筑波大学、(一財)電力中央研究所の研究グループは22日、がんの放射線療法の一種であるホウ素中性子補足療法によるがん細胞の殺傷効果を理論的に予測する手法を開発したと発表した。この手法を用いると、新しいホウ素薬剤の治療効果の予測や、症状に合わせた最適な放射線治療計画の提案が可能になるという。

 ホウ素中性子補足療法は、患者にあらかじめホウ素薬剤を投与し、加速器や原子炉で得られる中性子ビームを患部に照射して、ホウ素と中性子の核反応で生じるアルファ粒子やリチウムイオンを用いてがん細胞を殺傷する治療法。

 アルファ粒子やリチウムイオンの体内での飛距離はわずか細胞1個分程度なので正常細胞をあまり損傷せずにがん細胞を選択的に破壊でき、悪性度の高い脳腫瘍の治療などに効果的とされている。

 今回研究グループが開発したのは、ホウ素薬剤の違いによるがん細胞殺傷効果の違いを理論的に予測する数理モデル。

 薬剤による治療効果の違いが、薬剤が細胞内および細胞間で不均一に分布する効果に起因することを突き止め、この解析結果に基づき、薬剤濃度の不均一性を指標として治療効果を予測する数理モデルを開発、動物実験で精度良く再現できることを確認した。

 開発した新数理モデルは薬剤治療効果比を理論的に予測可能とするため、今後の創薬研究や治療計画の最適化に役立つという。今回の研究により、薬剤治療効果比を高めるためには、より細胞核近傍に集積性を持ち、細胞間に均一に分布するホウ素薬剤の開発が鍵となることも明らかになったとしている。