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有機半導体単結晶薄膜を印刷で作製―低コストの薄膜集積回路実現も:東京大学/産業技術総合研究所ほか

(2018年2月3日 発表)

 東京大学と(国)産業技術総合研究所、(国)物質・材料研究機構は23日、分子レベルで膜厚を制御した有機半導体の単結晶膜を印刷方式で作製することに成功したと発表した。すでに10cm角以上の大面積化を実現したほか、有機半導体膜を用いたトランジスタとして世界最高レベルの動作速度も達成、高速演算可能な低コストの大規模集積回路の実現にも道をひらくと期待している。

 開発したのは、東大の竹谷純一教授(産総研客員研究員及び物材研主席招聘研究員を兼務)らの研究グループ。

 有機半導体はシリコンなど個体半導体とは異なり、製造に印刷プロセスが利用できるため低コスト化可能な次世代電子材料として注目されている。ただ、大面積の単結晶づくりが難しいほか、半導体の性能面で高速動作が困難などの問題があった。

 そこで研究グループは今回、新しい有機半導体材料「C8-DNBT-NW」を合成し、これを有機溶媒に溶かしたインクにして単結晶薄膜を印刷方式で作ることを試みた。その結果、分子層の数を制御しながら有機半導体の単結晶薄膜を作ることに成功、10cm角以上に大面積化できるようになった。薄膜の厚さは15nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)以下で、分子スケールで制御できる。試作した薄膜も数分子層の厚さだった。

 トランジスタにしたときにどの程度高速動作が可能かを調べるため、2分子層有機単結晶薄膜でその指標になる電荷移動度を測定したところ、実用化の指標となる数値の1.3倍だった。また、有機半導体は接触抵抗と呼ばれる性質が大きい値を持つことも弱点の一つとされていたが、試作した薄膜は有機半導体として世界最小レベルを記録、有機半導体によるトランジスタの高速化に極めて有望と研究グループはみている。

 今回の成果について、研究グループは「これまで困難と考えられていた高速演算処理が必要な論理素子への応用が期待される」と話している。また、今後のIoT(モノのインターネット)社会を支える物流管理に必要な低コストの無線タグなど、さまざまな展開が期待できるという。