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カビ酵素の分子構造改変で新規生体触媒―医薬品開発に新たな道:東京大学/高エネルギー加速器研究機構

(2018年1月9日発表)

 東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は19日、糸状菌(カビ)が抗生物質を作るときに働く生体触媒「酵素」の分子構造を解析、その一部を改変して触媒機能の拡大に成功したと発表した。生体内で多段階にわたる生化学反応を促進する酵素を初めて人工的に作り出したもので、医薬品開発などに新たな道をひらくと期待している。

 開発したのは、東京大学大学院薬学系研究科の中嶋優さん(博士課程3年)と阿部郁朗教授、高エネ研構造生物学研究センターの仙田俊哉センター長らの研究グループ。

 糸状菌はペニシリンを始め様々な医薬品の原料となる有機化合物をつくるのに重要な役割を果たしている。研究グループは、糸状菌が抗がん活性や免疫抑制作用など様々な生理活性を持つ化合物群「メロテルペノイド」を作る際に中心的な役割を果たしている一群の酵素「αケトグルタル酸(α-KG)依存性ジオキシゲナーゼ」に注目、その働きを詳しく調べた。

 実験では、これら一群の酵素のうちPrhAAusEと呼ばれる二種類の酵素を選び、高エネ研の放射光施設「フォトンファクトリー」で得られる高輝度X線を用いて結晶構造を解析した。その結果、PrhAには酵素活性に重要なアミノ酸残基が3種類見つかった。さらにこれらのアミノ酸をAusE型に変異させた変異型PrhA酵素を作ったところ、AusE型と同じ反応を促進するだけでなく、酸化反応をさらに23回進めた新化合物をつくる働きをすることもわかった。

 この成果について、研究グループは「新規な多段階反応型酸化触媒の創出に成功した」と話している。実験に用いたα-KG依存性ジオキシゲナーゼはヒト細胞内でも60種類以上見つかっており、今後この手法で新しい多段階反応型酸化触媒を創出すれば、新しい医薬品の創出にもつながると期待している。