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透過中性子で未知の電子スピン配列の観測が可能に―観測のための装置設計の自由度が飛躍的に増大:物質・材料研究機構ほか

(2017年11月17日発表)

 (国)物質・材料研究機構と(国)日本原子力研究開発機構、J-PARCセンターは1117日、物質の電子スピンの配列を、回折中性子ではなく、透過中性子を用いて観測することに世界で初めて成功したと発表した。未知のスピン配列が潜む超高圧・強磁場などの極限環境をつくる装置を観測系内に設置しやすくなり、スピン制御による新材料やデバイスの開発の進展が期待されるという。

  電子には電気的性質だけではなく磁気的性質があり、これをスピンと呼んでいる。身の回りの永久磁石や情報保持媒体である磁気メモリーなど、古代から現代まで用いられてきた磁気材料やその応用製品は、スピンのNS極の向きが揃った単純な状態を利用したもので、内部のスピンの並び方に関心を払う必要はなかった。

 ところが最近、スピンの向きの配列状態をうまく利用して革新的な電子デバイスや素子をつくる研究が浮上し、超高圧・強磁場・超高温・極低温といった多重極限環境の未踏フロンティアに新たなスピン配列とその機能を探索する研究が盛んになっている。

 このスピン配列の研究の手立てが中性子による観測で、これまでは回折中性子をとらえていたが、多重極限環境をつくる装置類を、回折中性子を避けて観測系内に設置することは難しく、これが未知のスピン配列の評価・解明実験の制約となっていた。

 研究グループは透過中性子を観測することでもスピン配列の情報が得られると考えて実験した結果、スピン配列に関する十分な情報を引き出せることを確認した。実験は、大強度陽子加速器施設J-PARCで生成されるパルス状の中性子を試料に照射、透過してくる中性子の強度と波長の関係を調べたもので、スピンの配列を反映した特定の波長で中性子の透過強度が大きく減少することが認められた。

 透過中性子の軌道は入射ビームと同一直線上になるため、極限環境発生装置の設置はその軸線上からわずかに外すだけでよく、装置の設計の自由度が飛躍的に向上するという。