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磁気記録薄膜などの電場・磁場中での観察が可能に―次世代デバイスの動作原理解明などに貢献:高エネルギー加速器研究機構

(2017年8月8日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)は88日、磁気記録デバイスなどに用いられる薄膜の内部状態を深さ方向にナノメートルの分解能で観察できる「軟X線深さ分解XAFS法」という分光法を発展させ、世界で初めて磁場中や電場中における観察を可能にした、と発表した。

 電場を用いて磁性を制御するスピントロニクス材料をはじめ、さまざまな次世代薄膜デバイスの動作原理解明が飛躍的に進むと期待されるという。

 ハードディスクや磁気カードなどの磁気記録デバイスは、いくつかの異なる磁性体薄膜の積み重ねでできており、膜と膜の境目である界面における化学・磁気状態の観察が欠かせない。

 この観察に用いられているのが、研究チームが2000年代初めに開発した「軟X線深さ分解X線吸収分光法(XAFS法)」。この分光法は、観察試料に軟X線を照射し、軟X線が吸収される際に放出される電子線と蛍光X線のうち、電子線をキャッチして、電子が飛び出してくる角度やエネルギーなどから、界面の状態を深さ方向に高精度の分解能で捉える。

 ところが近年スピントロニクスの進展に伴い、デバイスが動作している状態、つまり電場・磁場中で、薄膜の化学・磁気状態をナノメートルの分解能で観察することが求められるようになった。これまで観察の手段になっていた電子線は磁場中や電場中では電子の進路が曲げられたりして役に立たない。

 そこで研究チームは、電子線と一緒に放出される蛍光X線の利用に着目した。蛍光X線は電場や磁場によって曲げられることがない。ただ、ナノメートルレベルの深さ分解能を実現するには表面すれすれで放出されてくる蛍光X線を感度よく検出することが求められる。

 研究チームは今回、検出感度や位置分解能が高い軟XCCDカメラを導入し、高い角度分解能を実現した。観察実験では、薄膜表面や表面付近の化学反応物質の状態などを読み取れたという。デバイスが動作しているのと同じ電場・磁場中で薄膜の化学・磁気状態の観察が可能になり、次世代デバイスの開発への貢献が期待できるとしている。