[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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パワーデバイス内部の電界を初めて計測―ナノメートルスケールで直接観測することに成功:科学技術振興機構/東京工業大学/産業技術総合研究所

(2017年1月26日発表)

 (国)科学技術振興機構(JST)、東京工業大学と(国)産業技術総合研究所は1月26日、共同で電力用半導体素子「パワーデバイス」内部の電界を直接観測することに成功したと発表した。

 次世代のパワーデバイス材料の一つと期待されているダイヤモンドを用いて実現したもので、「高電圧動作中のパワーデバイス内部の電界強度を定量的にナノメートルスケール(1ナノメートルは10億分の1m)で計測したのは世界でも初めて」といっている。

 コンピューターなどに使われているLSI(大規模集積回路)は、演算や記憶などの働きをするデバイス(素子)だが、交流・直流の変換を行なったり電圧を降圧するなど電圧、電流、周波数の制御を行う半導体デバイスのことをパワーデバイスという。

 現在、その中核を担っているのはシリコン製パワーデバイスだが、よりバンドギャップ(禁制帯:電子が存在できない領域)が大きいワイドバンドギャップ半導体を使う次世代パワーデバイスに置き換えて低炭素社会に求められる大幅な省エネルギー化、機器の高性能化・小型化などに対応しようという研究開発が内外で活発化している。

 そのワイドバンドギャップ半導体としては、炭化ケイ素、窒素ガリウム、ダイヤモンドなどさまざまなものが挙がっているが、中でも注目されているのがシリコンの約5倍のバンドギャップを持つダイヤモンドを使うパワーデバイス。

 こうした新デバイスの性能を決める重要な要素が半導体内部の電界。電界とは、電圧のかかっている空間のことで、電界強度が材料を破壊する限界の電圧を超えるとシステムは正常、安全に動作できなくなる。

 しかし、これまでの走査型プローブ顕微鏡を用いる方法では材料の表面だけの計測となってしまい定量的にナノメートルスケールの分解能で半導体内部の電界を測ることは難しかった。

 今回の研究は、JSTの戦略的創造研究推進事業の一環として行われたもので、ダイヤモンド半導体中に「窒素‐空孔(NV)センター」と呼ぶ構造を形成しそれを利用して直接ダイヤモンドパワーデバイス内部の電界強度を計測できるようにした。

 NVセンターは、1つの窒素原子と1つの空孔(結晶中にできた空隙)からできている原子レベルの超微細な構造なためパワーデバイス内部の電界強度をナノメートルスケールで計測でき、室温や大気中で高感度センサーとして機能する。研究グループは、実験で得たダイヤモンドパワーデバイス内部の電界強度がデバイスシミュレーターの結果と一致し、ナノメートルスケールで計測できることを確認した。