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ケイ素化学の基幹原料合成に新技術―短時間・高効率で省エネ・低コスト化:産業技術総合研究所/コルコート

(2016年10月25日発表)

 (国)産業技術総合研究所とコルコート(株)は10月25日、ケイ素化学の基幹原料「テトラアルコキシシラン」を従来よりも短時間・高効率で直接合成する技術を共同で開発したと発表した。植物の燃焼灰や砂など安価なケイ素源を用い、樹脂やゴムとして使われるシリコーンなどの有機ケイ素化学製品を作るのに必要な原料を省エネ・低コストで製造する新たな道をひらく。

 研究グループは今回、テトラアルコキシシランを作るために必要なシリカ(二酸化ケイ素)源として、安価で豊富に存在する砂や植物燃焼灰、産業副産物などを使用。これをアルコールと反応させ、一段階で高効率合成する技術を開発した。

 新技術では、アルコールとの反応の際に生成する水を除去するため、結晶性の無機物で多孔質構造を持つゼオライトの一種「モレキュラーシーブ」を脱水剤として利用した。その結果、従来の有機脱水剤よりも効率よく水を吸着除去、水によって生じる逆方向の反応を効果的に防いでテトラアルコキシシランの収率を上げることに成功した。新脱水剤は簡単に回収でき、加熱・減圧によって再生し繰り返し使用できる。

実験では、砂や灰など反応性が低くシリカ純度の低い天然のケイ素源を使用しても、反応時間3時間でテトラアルコキシシランが高い収率で得られることがわかった。シリカを豊富に含む珪質頁岩を砕いた砂を使用した場合には、含有シリカに対して51%の収率で、また、もみ殻の灰を原料にした反応では78%の収率でテトラアルコキシシランを合成することができた。

 テトラアルコキシシランは、セラミックスや電子素子用の保護膜・絶縁膜の原料として利用されているほか、幅広い産業分野で使われるさまざまな有機ケイ素材料の原料としても有望視されている。ただ、従来の技術ではシリカを含む鉱物「ケイ石」を金属ケイ素に還元するプロセスが必要で、10%の収率を得るのにも24時間かかるうえ、エネルギー多消費型で高コストだった点が課題とされていた。

 研究グループは、新技術について「スケールアップなどの事業化に必要な課題解決に取り組み、数年後の実用化を目指す」と話している。