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餌不足のマルハナバチは葉に穴をあけて開花を早めていた!?

(2020年7月01日)

セイヨウオオマルハナバチ。腹部の先が白いのが特徴。(©Mooganic)

 マルハナバチ花粉や花蜜をエサとし、花から花へと飛び回るため、花粉を運ぶのに重要な送粉者としての役割も担っています。エサは自分のお腹を満たすためだけでなく、コロニーの幼虫を育てるためにも使っているので、初春などに開花が遅れるとエサ不足が深刻化します。このほど、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(スイス)を中心とする研究チームは、エサ不足のマルハナバチが開花前の植物の葉に穴をあけることで、植物種によっては開花を30日も早めるということを明らかにしました。

 今回の研究は、あるマルハナバチの行動を観察したことから始まりました。野外でセイヨウオオマルハナバチが、アブラナ科のヤセイカンランとクロガラシ、ナス科のラシャナスとナスの4種の植物の葉に、ほんの数秒ではっきりとした穴を空けていたのです。ところが、マルハナバチは切り取った葉を巣に持ち帰るようには見えませんでした。この行動は何を意味するのでしょうか? 

 研究チームでは、このマルハナバチの行動が、植物の開花と関係しているという仮説を立てました。なぜなら、これまでの研究で、多くの植物種でストレスが開花期に影響することが知られていたからです。ただし、それは乾燥や病原菌のようなストレスであって、昆虫が葉にあけた穴と開花期の変化とを結びつけるような事例は、これまで知られていませんでした。

 この仮説を検証するために、さまざまな実験が行われました。まず、ナスとクロガラシを材料として、セイヨウオオマルハナバチが葉に穴をあけた場合と、無傷の場合とで、開花時期の変化を調べました。すると、穴があけられた場合は、無傷の場合に比べて、ナスで30日、クロガラシで16日も開花が早まったのです。また、このマルハナバチの行動は、エサの量と関係していることもわかりました。実験的に3日間、エサが与えられなかったマルハナバチは、充分なエサを与えられたマルハナバチよりも、葉に穴をあける行動が増加したのです。

 マルハナバチのあける穴が、開花を早めるメカニズムはまだ明らかになっていません。しかし、カミソリで同じ形の穴をあけても、開花が早まらなかったことから、マルハナバチが注入する何らかの成分が関与している可能性があります。このメカニズムが明らかになれば、花や作物の開花を早めることにも役立つかもしれません。

 ところでなぜ植物は開花を早めるのでしょうか? 例えば、異常気象などで、気温が変化すれば、開花期がずれることがあります。その結果、送粉者とってはエサが不足し、植物にとっては受粉ができず子孫を残しにくくなり、両者が共倒れする危険性があるわけです。そのような視点から考えると、送粉者による葉の穴あけに植物が速やかに反応して開花を早めることは、植物の繁殖にとっても重要な役割を果たしている可能性があると、研究チームでは推測しています。

 

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記事執筆:保谷彰彦

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