[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

葉に残された食痕から食べた昆虫を特定!!

(2020年8月01日)

クワの葉を食べるカイコ。(写真提供/京都大学農学部 工藤葵)

 植物は多くの植食性の動物から食害を受けます。年間の光合成産物のうち、平均で10%以上が植食性動物によって食べられているという報告があります。そのため、植物と植食性動物との関係を解明することは、生態系を理解し、農作物を食害から守る上で重要です。特に、昆虫は植食性動物の中でも種類や数が多いことから、これまでにも多くの研究がなされてきました。しかし、野外で植食性の昆虫が植物を食べている場面に遭遇するチャンスは限られています。また、飼育実験で植食性昆虫を観察して得られた結果が、常に野外でも当てはまるとは限りません。このため観察を中心にして植食性昆虫を網羅的に調査するのは極めて困難です。

 このほど京都大学と神戸大学の研究グループは、葉の食痕に残されたわずかなDNAから、植食性昆虫の種を特定することに成功しました。この研究成果は国際的な学術誌『Environmental DNA』に掲載されています。

 研究グループが注目したのは環境DNAの分析方法です。環境DNAとは、土壌や水中などの環境に含まれる、生物に由来するDNAの総称のことで、環境DNAを利用して、魚や両生類などの分布や量を推定する研究が近年盛んに行われています。この環境DNAの分析方法を使うことで、食痕に残された微量なDNAからでも、植食性昆虫の種を特定できると予想したのです。

 まずは実験室で、カイコによって食害を受けたクワの葉と、食害を受けていないクワの葉を使い、微量のDNAを調べました。その結果、食害を受けた葉からカイコのDNAを検出することに成功しました。食痕の長さが長いほどDNAの検出率が高くなることから、検出されたDNAは主に食痕に残されたカイコのだ液などの分泌物に由来すると考えられます。また、この手法は野外でも応用できることがわかりました。野外で採取したベニシジミの食痕がついた葉から、ベニシジミのDNAを検出できたのです。世界で初めて、植物に残された食痕から植食性昆虫の微量のDNAが検出されたことになります。

 今回開発された手法をもとに、今後は野外の植物を対象に、残された食痕から、さまざまな植食性昆虫を特定することが可能になると予想されます。そうなれば、農作物を食害する昆虫を網羅的に調べることや、絶滅が心配される昆虫が餌とする植物を調べることが可能になります。今回の成果が、近い将来、広く応用されることになるものと期待されます。

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記事執筆:保谷彰彦

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