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熱を長時間蓄え、弱い圧力で熱を放出するセラミクス

(2019年11月01日)

ブロック型ラムダ五酸化三チタンの結晶構造の模式図と透過型電子顕微鏡で見た拡大図。

ラムダ五酸化三チタンは2010年に大越慎一教授が発見した酸化チタン材料。今回見つかった物質はブロック状の形状を持つ。(写真提供/東京大学)

 自動車のエンジンは内燃機関と呼ばれ、内部でガソリン等の燃料を爆発的に燃焼させることによってエネルギーを取り出しています。このとき、発生する熱エネルギーのすべてが車輪を回転させるための運動エネルギーに変換されるわけではありません。その多くが、熱エネルギーとして大気中に無駄に放出されています。

 この捨てている熱エネルギーを有効に活用できれば、エンジンを始動するときの助けになり、無駄な燃料の消費を抑えることができます。

 蓄熱材料にはいくつかありますが、ほとんどのものは時間が経過するとともに自然に熱が放出されていってしまいます。

 東京大学大学院理化学研究科の大越慎一教授らの研究グループは、長期間、熱エネルギーを蓄えることが可能で、しかも弱い圧力を加えることで熱エネルギーを取り出せる高性能な蓄熱セラミクス材料の開発に成功しました。

 これはラムダ五酸化三チタンという結晶構造を持つ物質です。粒子がブロック状の形であることからブロック型ラムダ五酸化三チタンと名づけられています。この物質の特徴は、蓄熱量が大きいというところです。この物質の蓄熱量は、水が固体(氷)から液体へ変化する相転移で生じる熱の約70%といいます。

 この蓄熱したセラミクスは、圧力を加えるとラムダ構造からベータ構造に相転移し、このときに熱を放出するという特徴があります。相転移が始まる圧力は、数メガパスカル(MPa)からで、7メガパスカルでラムダ構造の割合が半分になるといいます。7メガパスカルとは気圧に直すと70気圧。大きな圧力のようにみえますが、広く使われている市販のガスボンベの充填圧力(14.7MPa)の約2分の1しかありません。

 この物質は熱を加えると再びベータ構造からラムダ構造へと相転移し熱を蓄えます。いったん熱を蓄えると、室温の状態でも熱の放出は見られないそうです。蓄熱においても放熱においても安定した性質を示すのは、ラムダとベータの両構造において安定性が高いためです。

 この技術は、自動車のエンジンだけでなく、太陽熱発電所の蓄熱材量など、これからのエネルギー有効利用のために大きく役立つでしょう。

 

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記事執筆:白鳥 敬

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