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火星の月にかけらをとりに(2)~火星から還る日

(2016年10月01日)

火星衛星サンプルリターン機(MMX) ©JAXA 

 前回、火星の月がジャイアントインパクトによってできたのではないかというシミュレーション結果を紹介した。それによると火星の月を形作る無数の破片には、衝突した原始的な小惑星に由来するものと、火星本体に由来するものがおよそ半分くらいの割合で含まれているという。
 衝突時に溶けることなく固体(岩、石といった)のまま火星の月に取り込まれる物質も多いと考えられる。

 したがって、フォボスやダイモスに行ってサンプルを持ち帰ることができれば、衝突した天体と火星そのものに由来する両方の物質を持って還ることができ「一石二鳥」だ。
 加えて、サンプルを詳しく調べることで、過去にあったジャイアントインパクトのありさままであきらかにできることが期待されている。これは「一石三鳥」とも言える。(玄田さんの言葉)

 火星の月の起源に関する研究の深まりを受けて、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は「火星の衛星サンプルリターン計画(MMX:Martian Moons eXploration )」の検討をスタートした。
 計画によれば、2020年代前半に打ち上げて、早ければ3年後、遅くとも2030年代前半までには地球への帰還を狙っている。
 火星往復の年数は、通常のロケットエンジンで航行するか、燃費の良い「はやぶさ」でも使われたイオンエンジンを使うかで大きく変わってくる。ただしロケットエンジンを使うとなると燃料をたくさん積む必要から重さ3トンを超える大型の探査機になる。

 米国やヨーロッパにも2020年代に無人の着陸機を使った火星表面からのサンプルリターンをやろうという動きもあるが、大きな重力のある火星に探査機を降ろしてサンプルを採取して、再び火星周回軌道上まで上昇して、地球まで帰還するという大変大きなエネルギーを必要とするミッションになるために超大型の探査機が必要になり、その実現は容易ではない。
 日本の計画がそれより早く動くことができれば、世界初の火星の月への着陸、そして火星サンプル回収になることも期待される。

 一方さらに先の計画として、NSAS長官からは日本を含む各国へ2030年代の有人火星探査の提案がなされている。
 7月末、NASAのチャールズ・ボールデン長官が2030年代を目標とする有人火星探査への「日本の参加を期待している」と語り、火星への離着陸機や居住施設の技術開発を例に挙げた。近く訪日して宇宙政策の関係閣僚や省庁幹部らに協力を求める。(朝日新聞デジタルより)

 火星の誕生からの40億年を超える歴史が明らかになる期待が高まる。
 火星からサンプルを携えたMMXの帰還カプセルが地球に還る日、新たな探査の1ページが開かれる。

 2010年6月に「はやぶさ」が地球に還ったあの日のように。

                                     (おわり)

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。