[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

温めると縮む新材料を開発

(2019年3月01日)

一硫化サマリウムのサマリウム原子22%をイットリウム原子に置き換えた物質では、一定の温度範囲では、温度を上げると、負の膨張率となっていることがわかる。

画像提供/名古屋大学 大学院工学研究科 教授 竹中康司

 材料は普通、温度が上がると膨張して体積が増加し、温度が下がると収縮して体積が減少します。これを熱膨張といいます。ところが、まれに温度が上がると、逆に体積が小さくなる材料があります。これを負熱膨張といいます。負熱膨張を利用すると、熱による膨張を制御して、温度が変化しても体積の変化がほとんどない材料をつくり出すことができます。

 最近は、精密加工が必要とされる分野や、集積回路の部材など多くの先端分野で、温度変化による体積の変化を軽減する、能動的な熱膨張の制御が必要とされています。例えば近年、半導体の集積度が非常に高まり、数ナノメートルのスケールで加工されるようになっているため、わずかな熱膨張でも機能が損なわれる恐れが出てきています。

 このたび、名古屋大学大学院の竹中康司教授、浅井大悟大学院生、岡本佳比古准教授らの研究グループは、国立研究開発法人物質・材料研究機構と共同で、「原子内電荷移動」という現象を利用した新しいメカニズムの負熱膨張材料の開発に成功しました。

 原子内電荷移動とは、原子核の周りにある電子が別の軌道に移る現象です。研究グループは、サマリウムという元素に含まれる電子が2つの異なる電子軌道(4f、5d)のどちらに入るかで、原子の大きさが変わる現象を利用しました。4f軌道に入る電子が多いほど原子の大きさが大きくなります。

 一硫化サマリウム(SmS)という材料では、元素の一部を他の元素に変換することで刺激を与えると、原子内電荷移動によって状態が変わることがわかっていました。そこで、一硫化サマリウムに含まれるサマリウムの20%ほどをイットリウムという元素に置き換えてみたところ、熱を加えると体積が収縮することが確認されました。収縮率は4パーセント以上もあり、しかも、従来の負熱膨張材料とは違って、結晶のどの方向にも同じように伸び縮みするため、温度時変化が繰り返されても、歪みが入ることがないという特徴を持ちます。

 この成果は、ナノスケールで熱膨張がほとんどない、精密で安定した材料をつくるのに役立つほか、これまでになかったアクチュエータ(駆動)材料をつくることができると期待されています。また、有害な鉛を含まないところも大きなメリットです。

 

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記事執筆:白鳥 敬
 http://www.kodomonokagaku.com/