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母に運ばれながら子は学習していた!! コウモリの子育てに新事実

(2022年1月01日)

エジプトルーセットオオコウモリの母が、イチジクの果実をくわえながら、子を体にくっつけて運んでいる。@Yuval Barkai

 コウモリは毎晩数十kmもの距離を飛行して餌を探します。このとき、母コウモリが幼い子を体にくっつけて運ぶことが多くの種で知られています。ところが、成長するにつれて子の体重は母の体重の40%にもなるので、飛行する際に母はエネルギーを余分に消費することになります。なぜ母は労力をかけて幼い子を体にくっつけて運ぶのでしょうか?

 この謎の解明に取り組んだのは、テルアビブ大学(イスラエル)などの研究グループで、母が子を運ぶのは、子の学習を促すためではないかと予想しました。そこで、幼い子を運ぶコウモリの1種であるエジプトルーセットオオコウモリの母と子に、それぞれ小型のGPS発信器を取り付けて、その行動を追跡し、子の成長過程と合わせて解析しました。

 その結果、一連の明確なパターンが明らかになりました。生後1~3週目は、母と子が常に一緒で、母は子をお腹のあたりにくっつけて空を飛び、夜の間もずっと子を抱っこしていました。この時期には、子は母乳を飲んでいて、完全に母に栄養を依存しています。

 3~10週目には、母が幼い子を巣から数km離れた特定の木まで運び、その木に子を残す「ドロップオフ」という段階がありました。母はドロップオフ地点から離れた場所で、餌になる果実などを探しながら、何度もドロップオフ地点に戻って、子の様子を確認していました。そして、餌を与えたり、体を温めたりして、子の世話をしていたのです。

 8~10週目になると、子はいつものドロップオフ地点まで、夜間に単独で飛行し、夜明け前には巣に戻るようになりました。子にとって初めての単独行動です。

 10週目以降になると、子はドロップオフ地点を起点に、新しい果樹を自力で探すようになりました。このように、ドロップオフ地点は、子にとって巣を出てから帰るまでのナビゲーションの役割を果たしていたのです。ここで対照として母がいなくて、ドロップオフの経験がない子の行動を調べてみると、巣の近くで餌を探すこと、そして巣を出ても夜明け前までに巣に帰るルートを見つけられないことが多いとわかりました。

 今回の研究によって、子が親から自立するときには、まず母によって運ばれたドロップオフ地点まで、母と同じルートで単独で飛行するようになり、その後、新しい場所で餌となる果実を探すようになることがわかりました。さらに今回の観察では、子が単独で飛行するときに、母の後を追いかけることはありませんでした。このことから、幼い子は母の体にくっついて運ばれている間に、餌を探すための学習をしていたと研究グループでは考えています。つまり、母はお腹に子をくっつけて、特定の木まで繰り返し運ぶことで、子の学習を促していたというわけです。

 

【参考】

Goldshtein et al. (2022) Mother bats facilitate pup navigation learning. Current Biology. 32: 1–11.  

保谷彰彦

文筆家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門はタンポポの進化や生態。主な著書は、新刊『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共に、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。

http://www.hoyatanpopo.com