[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

天球のものがたり

(2018年12月15日)

プラネタリウムの星空に映し出した星座絵と境界線

 ゆりのはな(花)座、となかい座、フリードリヒのえいよ(栄誉)座、けいききゅう(軽気球)座、ねこ座・・・。何とも奇想天外な名をした星座があるものです。でも、どれも、なじみがありません。これらは、17世紀から19世紀ごろに実在し、今は使われていない幻の星座なのです。当時のヨーロッパでは、天文学者の間で、新しい星座づくりがブームとなっていました。フランスのラランドは、自分が大好きなネコを星座にしました。イヌの星座があるのだから、ネコの星座もあっていいはずと考えたのかもしれませんね。また、ドイツのボーデは、プロイセンのフリードリヒ大王を称え、フリードリヒのえいよ(栄誉)座を作りました。栄誉を形にしてしまうとは、見事なものですね。特に、星空に決まりごとはなく、天文学者たちが自由に星座を描くことのできた時代だったのです。

フランス国立図書館が所蔵する「ピジョン天球儀(1714~1739年)」に描かれた幻の星座 (左:ゆりのはな(花)座、右:フリードリヒのえいよ(栄誉)座)

 そもそも、星座は天球上の星々をグループ分けし、結び合わせたものです。そこに、動物や道具、神様など、いろいろな絵を当てはめています。星座の起源は、5000年ほど前のメソポタミア地方(現在のイラクのあたり)にさかのぼります。月ごとの12の星座などについて書かれた粘土板が残されています。そして、星座はギリシャに伝えられ、神話や伝説と結びつけられて、まとまりを見せ始めました。2世紀ギリシャの天文学者プトレマイオスは、古代天文学の集大成である『メガレ・シンタクシス(天文学大系)』を著しました。この中に記されている48の星座は、ほぼそのままの形で現在まで伝えられています。

 その後、長い歴史の中で、多くの人たちが、さまざまな星座を作りました。しかし、世界中の人たちが交流するようになり、人によって使う星座が異なるのでは不便になったのです。そこで、国際天文学連合は、1930年、星座を整理し、境界線を定めました。それが、今わたしたちが使っている88の星座です。

 この季節、きらびやかな星々が、底冷えする冬の夜空を飾っています。なかでも、砂時計のような形をした星の並びは、オリオン座です。近くには、おおいぬ座やおうし座もあります。科学が発達した今日、芸術作品のような星座そのものに、天文学的に大きな意味があるわけではありません。天体の位置は、赤経・赤緯などの座標により正確に示すことができるからです。しかし、そんな今でも、星座を使い、天体のおおよその位置を知ることができます。このようなことは、他の科学ではあまり見られないことかもしれませんね。それだけ、長い年月、星が人々の生活と密接な結びつきをもっていたということでしょう。

 みなさんも、近世ヨーロッパの天文学者のように、星と星とを結び、自由に自分だけの星座を作ってみませんか。つくばエキスポセンターでは、プラネタリウム番組「天球のものがたり My星座にチャレンジ」を上映しています。( http://www.expocenter.or.jp/?page_id=47

 

原 秀夫(はら ひでお)
 つくばエキスポセンター 運営部プラネタリウム担当
 子どもの頃、火星大接近を機に天体に興味をもつ。いつしか、星に関わる仕事につくことに。直前に雲に覆われてしまった2009年皆既日食のリベンジを果たしたいと思っている。