[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

人工衛星の画像をカラー化!植生や生態系の変化が一目でわかる

(2020年6月15日)

南米における森林伐採のようす。(提供:産総研、原初データ提供JAXA/METI)

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)人工知能研究センターと産総研・東工大実社会ビッグデータ活用オープンイノベーションラボラトリは、産総研が持つ人工知能処理用のABCI(AI橋渡しクラウド)というコンピュータシステムを用いて、人工衛星が5年間にわたって撮影した全地球の地表のデータの画像を処理し、公開しました。
 衛星から地表をセンシングし、有用なデータを得る技術が進んでいます。センシングとは、遠く離れた宇宙空間から、電波・光・赤外線などさまざまな波長の電磁波を使って、地上の植生・農耕地・災害の状況などを調べる技術です。
 このたび、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」(2006年打ち上げ、2011年運用終了)に搭載された合成開口レーダーが取得した全データについてABCIコンピューターシステムを使って画像処理を行いました。そして、5年に渡る地表面の変遷をカラー画像として公開しました。この画像は次のサイトで無料で見ることができます。

https://gsrt.airc.aist.go.jp/landbrowser/index.html

 電波は光と違って夜間でも地表を「見る」ことができるという大きなメリットがあります。ただ光よりずっと波長が長いので、そのままレーダーとして使うと解像度が悪すぎて使えません。そこで、合成開口レーダーとすることで解像度をあげているのです。合成開口レーダーとは、衛星が軌道上を移動する距離を利用して、仮想的に大きなアンテナとして作動させるものです。大きなアンテナとして使うことで解像度を上げることができます。
 「だいち」に搭載されたレーダーの特長は、4つの偏波モード(電波の振動の方向の違い)を持ち、散乱電力分解という解析手法を用いて、目標物から反射してきた電波の散乱の状態から目標物がなんであるかを推定できることです。
 散乱モデルには、①地表・海面からの1回のみの反射による散乱、②地面と道路などで2回反射する散乱、③繁った木の枝などのボリュームのある物体からの体積散乱、④直線偏波を円偏波に変えるヘリックス散乱、があります。
 これらの散乱データ解析して地表面の状態が森なのか畑なのかを識別し、色を変えて表すことでカラーレーダー画像が作成されました。
 この計算を行ったのが冒頭に述べたABCIで、700TBもの大量のデータをわずか3か月で処理することができました。
 カラー画像化された事例の1つを見てみましょう。図は南米の熱帯雨林の時系列変化を示したものです。繁った木々による体積散乱が見られる場所は緑色、伐採されて表面散乱が多くみられる場所が青色で表示してあります。赤色で表されている場所は、伐採地に再び草が生えるなどして2回の反射散乱が起こっているところです。これらの画像から月日の経過とともに熱帯雨林で伐採が拡がり、その後その一部には草木が生い茂ってきていることがわかります。
 衛星からのセンシングデータの利用は、ビッグデータ技術やAIディープラーニングの技術を合わせることで、新しい知見を生み出し、さらには大きなビジネスチャンスをもたらすと考えられます。

 

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記事執筆:白鳥敬

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