[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

わかる科学

リアルな触覚体験を仮想空間で実現

(2020年1月01日)

布状二次元通信システムの図(画像提供:慶應義塾大学)

 ヘッドマウントディスプレイを頭部に装着して、臨場感あふれるゲームや住宅の間取りなどの仮想体験が行えるVR(仮想現実)技術が普及しています。

 しかし、これは視覚情報に頼った体験であり、実際と同じような身体的な体験はできません。身体的体験とは、手指・皮膚の触覚、筋肉を使う身体の動きなどからくる総合的な感覚です。

 このたび、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科は南山大学及びEnhance Experience Inc.と共同で、布状の二次元通信システムの技術を応用してこれまでになかった画期的な触覚体験を実現できるハプティクススーツを開発しました。

 ハプティクススーツとは、電気的または機械的な刺激によって何かに触れたときの感触、つまり触覚を擬似的に体験できる衣装のことです。

 触覚を人工的に再現するために、「触原色」という概念が、この分野の科学者から提案されています。色を見分ける視覚が、RGB(赤緑青)の光の三原色を利用しているように、触覚は「振動・力・温度」の3つの要素の強弱・変化率などで再現できるという考え方です。

 慶應義塾大学大学院メディア研究科は、以前から触覚分野の研究でリードしており、ハプティクススーツの研究開発にも実績がありました。今度は、これに布状二次元通信システムの技術を応用し、より自然な感覚で全身で仮想体験ができるようになりました。

 布状二次元通信システムとは、導電繊維と絶縁繊維で構成された布を使って、普通の衣類のような「柔軟な面」で給電や通信を行えるようにしたものです。衣装の要所要所にハプティクスモジュールと呼ばれる振動子を取りつけてあり、この振動で触覚を再現します。

 頭部には、マジックリープと呼ばれる複合現実型ヘッドマウントディスプレイを装着し、視覚と聴覚で感じる映像や音声に合わせてハプティクスモジュールを振動させることで、身体全体で触感を体感することができます。マジックリープとは、現実空間に重ねて仮想空間を表示する装置です。

 布状二次元通信技術を実現するためには、給電・通信のためのシートを柔軟なものにする必要がありました。従来RFID(非接触で給電・通信ができる電子タグ)で使用されている二次元通信シートは固い板状のもので、柔らかな布には対応していませんでした。そこで今回は南山大学との共同研究によって、柔らかな材料への対応に成功しました。

 この布状の二次元通信システムは、さまざまな分野での活用が期待されます。ゲームにおける超リアルな臨場感の実現を始め、教育・医療・介護など幅広い分野で活躍するでしょう。

 研究グループは、数年以内の実用化を目指して、研究を続けるとしています。

 

子供の科学(こどものかがく)

 小・中学生を対象にしたやさしい科学雑誌。毎月10日発売。発行・株式会社誠文堂新光社。
最新号2020年1月号(12月10日発売、付録付き定価800円)では、2020年の干支、ネズミの大特集。奥深いネズミ研究の最前線を見てみましょう!また、奇想天外な発想でものづくりをしている明和電機さんへのインタビューも必見。さらに、別冊付録として、ノーベル賞を受賞した吉野彰先生オススメの実験も載ったリチウムイオン電池まるわかりBOOKがついてきます。

記事執筆:白鳥敬
 https://kodomonokagaku.com/