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メスにも角がはえた!カブトムシの角に性差が現れる時期を特定

(2019年5月15日)

図1 カブトムシのオスとメス
(写真提供/基礎生物学研究所)

  子供たちに人気のカブトムシをはじめ、コガネムシ科に属する昆虫の中には、オスだけが立派な角を持つ種類が多くいます(図1) 。ただし、同じ種類でありながら、オスだけに角がはえ、メスには角がはえないメカニズムについては十分に明らかになっていませんでした。基礎生物学研究所の新美輝幸教授と森田慎一研究員らのグループは、カブトムシの角に性差が現れる仕組みの解明に取り組みました。

 カブトムシの角は、幼虫と蛹の間の「前蛹」と呼ばれる時期に、角の基となる「角原基」から作られると考えられています。ですから、角原基ができるタイミングを正確に知る必要があるのですが、カブトムシの幼虫、蛹は地中に暮らしているため、幼虫から前蛹になる瞬間を観察によって捉えることは困難です。そこで研究グループは最後の脱皮を終えた幼虫(終齢幼虫)を透明なプラスチック容器で飼育して、その動きをタイムラプスと呼ばれる方法で撮影しました(図2) 。

 

図2 プラスチック試験管内での飼育の様子 (写真提供/基礎生物学研究所)

 

 タイムラプスは撮影対象の動きを早送りのように見ることができる撮影法で、ゆっくりとした動きのカブトムシの幼虫、蛹でも、タイムラプスを用いて観察することにより、前蛹期が始まる時に首振り行動という特徴的な動きを見せることが分かりました。さらに角原基ができるタイミングを正確に割り出すため、首振り行動を見せてから120時間まで、12時間ごとに、オス、メスの幼虫の体から角原基を摘出して、その形を比較したところ、36時間で性差が現れることが分かりました。

 次に角の性差をもたらす遺伝子の特定を試みた結果、「トランスフォーマー 」という遺伝子が見出されました。首振り行動から36時間以内が角の性差が決まるなら、その間にトランスフォーマー遺伝子により角の有無が決まっているはずです。このことを確かめるため、前蛹期が始まって36時間までのカブトムシのメスに対してトランスフォーマー遺伝子の働きを阻害する実験を行いました。すると阻害の程度によって大きさに違いはあるものの、カブトムシのメスにも角ができたのです。トランスフォーマー遺伝子の働きを完全に抑え込むことにより、オスと見間違うほどの立派な角がはえたメスまであらわれました(図3) 。

図3 カブトムシの性決定遺伝子transformerの機能を抑制するとメス化が阻害され、メスにオスと同様にツノが形成された。(写真提供/基礎生物学研究所)

 

 首振り行動から36時間以内に遺伝子が働くか、働かないかで角の性差が現れることが確かめられたため、より厳密に角が形成されるタイミングを調べた結果、前蛹期が始まる7時間前にトランスフォーマー遺伝子の働きを阻害したメスに角がはえました。遺伝子の働きを阻害する公開は、処理をしてから36時間後に現れることから、トランスフォーマー遺伝子が働くタイミングは前蛹期が始まってから29時間後であることが分かりました。

 

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記事執筆:斉藤勝司
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