[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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アリには、どうして働きアリと女王アリがいるのだろう?

(2017年3月15日)

 晴れた日に公園の木かげなどで地面を見ると、巣から出たり入ったりするアリの姿が目につきます。アリは、土の中のほか、木の幹などにも巣をつくります。巣の中は、女王の部屋、おすアリの部屋、卵の部屋、幼虫の部屋、えさをたくわえる部屋……などに分かれています。

 私たちがふつう目にするのは、働きアリです。アリは、ひとつの巣ごとに、大きな家族をつくっています。めすは女王アリと、働きアリに分かれますが、卵を産むのは女王アリだけで、残りのめすはすべて働きアリです。
 幼虫から成虫に育っためすのうち羽のあるアリは、ある時期になると、やはり羽のあるおすといっせいに巣から飛び立ちます。これを結婚飛行といい、めすは別の巣のおすと交尾をします。そして地上にもどると新たに自分の巣をつくり、卵を産みます。このアリが新しい巣の女王アリになります。卵からかえった働きアリが育つと、あとは卵を産むことだけが女王アリの仕事になります。
 女王アリはせっせと卵を産んで家族をふやし、働きアリはせっせとえさを集めて、女王や幼虫にあたえます。巣のそうじをしたり、敵と戦ったり、キノコを栽培したり……と、働きアリにはたくさんの仕事があります。
 生き物にとってだいじな仕事の一つは、自分の子どもをのこすということです。しかしアリの場合、子どもをのこす仕事にかかわるのは女王アリとおすアリだけです。働きアリは、ほかのアリの世話に明け暮れます。卵も産まず、自分以外のほかのアリだけのために一生働き続けるなんて、不公平でおもしろくない役割のような気がします。

 でも、ちょっと考えてみましょう。巣の中で卵を産むのが女王アリだけということは、自分が世話する幼虫はすべて、自分の弟や妹ということになります。わたしたちも、運動会や学芸会ではつい弟や妹を応援してしまいますね。家族が栄えるのなら、卵を産むのは女王にまかせて、自分たち働きアリは、がんばって弟や妹の世話をしよう、というのがアリの社会の考え方なのかもしれません。
 なぜ仕事が決まっているのか、それはアリに聞いてみなければわかりませんが、こういう社会を営むことで、自分たちがたいへん栄えていることは確かなようです。それが証拠に、アリって、ほんとうにたくさんいますよね。

 

上浪 春海(うえなみ はるみ)
大学は文系だが、子どものころから理科が好き。1980年ごろから今日まで、科学雑誌や図鑑、絵本、Webコンテンツなどで身近な科学や最新科学の紹介記事を書いてきた。専門用語をなるべく使わず、誰もがわかりやすい、面白いと感じてくれるような文章を心がけている。