[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

わかる科学

「2010年宇宙の旅」を越えて~1月15日コラムに続けて

(2017年2月15日)

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたエウロパからの水の噴出(左下の明るい部分)
提供:NASA

「これらの世界は全てあなた方のものだ。」
「ただし、エウロパは除く。決して着陸してはならない。」    (アーサー・C・クラーク)

 何度も繰り返されるこのメッセージは、SF「2010年宇宙の旅」のエンディング、木星が[モノリス](異星生命体が木星系へ設置した直方体の石版状の物体)の力で太陽化される寸前に発せられる言葉である。映画でも使われた印象的なラストなので覚えている人も多いかもしれない。ここでは[モノリス]は人類の干渉を排除しつつ、木星の衛星「エウロパ」の生物の進化を促す役割を果たすことが暗に示されている。

 2016年9月、NASAはエウロパ表面から水が高さ200kmまで噴出しているのをハッブル宇宙望遠鏡で観測したと発表した。

 エウロパ(探査機の画像を合成)の左下に、明るく見える水の噴出が見られる。この現象は数回観測されており、間欠的に表面から水が噴き出していると考えられた。このことは1月15日の徂徠さんのコラム「木星の衛星エウロパに水の海!生命の可能性?」に紹介されている。

 エウロパは1970年代のボイジャー探査機による観測で、表面全体に地球の南極で見られるテーブル氷山のような地形が見つかっていた。その後の観測で、表面は深さ数kmまで凍っていても、その下には木星の巨大な潮汐力によって氷が溶けた深さ百キロメートルにも及ぶ海が作られていると考えられている。光も届かぬエウロパの海中で生物が発生している可能性もささやかれている。
 地球でも光が全く届かない深海の奥底で、火山の噴出物を栄養とした生命のコロニーがあちこちで発見されている。エウロパにも同じような環境が存在しているのかもしれない。

 「エウロパから水噴出!」の発見を受けて、いくつかの探査計画が動き出している。NASAは2020年代にエウロパを含む木星の衛星群を観測する計画をしている。それに一歩先んじているのがESA(ヨーロッパ宇宙機関)のJUICE(JUpiter ICy moons Explorer)探査機だ。日本もこの探査機に、JAXA、NICT(情報通信研究機構)が開発した4つの観測装置をのせることになっており、現在開発が進められている。
 エウロパ表面から水が噴出しているとするとJUICEで地下の海の成分が直接分析できるチャンスが生まれる。地球の二十五分の一以下しか太陽光が届かない凍てついた木星の衛星の一つで生命の起源にもつながる大発見がなされるのを見守ろう。

 水の噴出孔の脇にそびえたつ[モノリス]、そんなSFのような物語が現実になるのだろうか?(想像をたくましくして)

 きっとその[モノリス]は異星生命体のものではなく、人類が送り込んだエウロパ生命の観測装置だったというエンディング。亡くなった作者のクラークがこの話を聞いたらきっと微笑んでくれるだろう。

「人類もよくやるわい!」と。

 

追伸:地球外の生命、第九惑星、土星の輪、金星の風、謎に満ちた太陽系のことをもっと知りたい方は、つくばエキスポセンターで上映中のプラネタリウム新番組「わくわく惑星ツアー~太陽系最前線~」を是非ご覧ください。

 

 

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。