[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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「はやぶさ2」便り6 ~ 未踏の地へ ~

(2019年7月17日)

(左)2回目のタッチダウン目標点C01-Cb(黄色い円)
(右)タッチダウン後、約100mの高度からとらえられた舞い上がった砂礫の雲(黒い部分) 

 未踏の地への歩みは4月5日に始まった

 リュウグウの上空300mで高性能の“オクトーゲン火薬”が爆発、その直後銅でできた重さ2kgの弾頭が秒速2kmでリュウグウの表面に衝突、高さ50mを超えるイジェクタカーテン(衝突の衝撃で飛散物がカーテン状に拡がる)が舞い上がる。衝突の反動で数mもの大きさの岩石も移動した。衝突地点には直径10m、深さがおよそ2mもある人工クレータが形成され、さらに40mもの広がりのあるイジェクタの飛散した跡が黒々と表面に残された。リュウグウの一角に人類が到達できなかった天体内部の物質がちらばった“未踏の地”が出来た。4月5日、11:36(以降探査機時刻JST)。

 

 「はやぶさ2」の津田プロジェクトマネージャは当日の会見で

 「本日わたしたちは、宇宙探査の新しい手段を確立しました。」と宣言、爆発物を用いて人工クレータを作ることで、新たな天体内部探査の方法を確立したことを発表した。米国は別な専用探査機を衝突させたり、天体のそばを高速で通過する際に事前に分離したインパクタを衝突させて人工クレータを作る実験は行っているが、爆発物を使って人工クレータを形成するやりかたは宇宙では「はやぶさ2」で初めて実現した方法だった。

 

 5月30日、C01と名付けられた第2回目のタッチダウン候補地点にむけて、タッチダウンの目標となる2個目のターゲットマーカ(TM)投下。投下はより精度を上げるために高度10mから慎重に行われた。

 TMは目標通りC01領域の北側に投下された。目標からのずれはわずか2.6m。

 

 これで決まった!この地点は人工クレータの中心から約20m、ここなら十分にイジェクタが降り積もっているはずだ。こうして C01-Cb(半径3.5m) 領域が2回目のタッチダウンの目標点になった。
 リュウグウの内部物質が降り積もった未踏の地への挑戦が始まった。

 7月10日、2回目のタッチダウンに向けての降下開始
 7月11日 09:47 高度30mで5月に投下したTMを捕捉
 10:03 高度8.5mからの最終降下開始、TMを使ったピンポイント降下、秒速10cm以下のゆっくりしたスピードで慎重に降下する
 10:06 C01-Cbのど真ん中に「はやぶさ2」が舞い降りた(タッチダウン後の記者会見では目標からのずれは1mくらいかという見方が示された)
 サンプル採取用のプロジェクタイルが打たれる
 サンプルは採取されたか・・・・ 
 秒速65cmで急上昇
 下部につけられたカメラにはサンプル採取とその後の上昇のためのロケット噴射によって舞い上げられた砂礫や岩石が無数に映し出される。10m、20m、30m砂礫はまだついてくる(無重力に近いリュウグウならではの現象)           

 高度約100mからの画像には舞い上がった砂礫が雲のように映しこまれた。

 サンプルを入れたコンテナ(キャッチャーC室)が閉められる。

 この瞬間、「はやぶさ2」は人工的に掘り出した天体内部のサンプルを回収するという世界で初めての挑戦をやってのけた。

 

 未踏の地へ舞い降りた「はやぶさ2」、2回のサンプル採取に成功

「はやぶさ2」は長い旅の折り返し点を過ぎつつあった

 

 さあ、母なる地球へ、帰還の準備を始める時が来た。

 40億年以上も前に、地球に水や有機物を届けたとも考えられる小さな天体のかけらを携えて・・・「はやぶさ2」の旅はあと1年半。

 

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
 NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。
軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。