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チョウの翅に新たな機能を発見!! 生きた細胞をもつ翅のヒミツ

(2020年2月19日)

 チョウやガの翅は薄い膜でできています。その翅の表面には鱗粉による模様があり、求愛や、天敵への警告、擬態などの役割があります。また、翅の縁に沿って神経が走り、多数の感覚毛という感覚器があることも知られています。カイコなどの研究では、この感覚毛により自らの翅の振動を感じとっていることが確かめられています。チョウやガの翅には多様な機能が備わっているのです。

 このほど、コロンビア大学やハーバード大学、ワシントン大学(いずれもアメリカ)の研究グループは、チョウの翅にさらなる機能があることを発見しました。この研究成果は、国際科学誌『Nature Communications』に掲載されています。

 この研究では、ヒメタテハを中心に、シジミチョウの仲間など、合計6つの科に分類されるチョウ類が各種の実験に利用されました。

 一連の研究では、まずチョウの翅から鱗粉を丁寧に取り外して、特殊な染料を使って神経の存在が調べられました。その結果、翅全体を走る神経細胞に加えて、2種類の感覚器が発見されたのです。感覚器は翅脈に沿うように位置していました。翅脈とは、翅全体に広がる、枝分かれした細い脈のことです。感覚器の他にも、嗅覚パッドや心臓のようなポンプも見つかっています。嗅覚パッドはフォロモンの生成に関係していると予想されます。ポンプは体液の循環を行っていて、その拍動は1分間に数十回でした。翅はただの薄い膜ではなかったわけです。

 ここで、研究グループは、さまざまな生きた細胞が翅に存在するなら、それらの細胞が働くために最適な温度があるはずで、さらに翅の温度を調節す仕組みもあるのではないかと予想しました。

 そこで赤外線ハイパースペクトルカメラによる画像技術を使って、チョウの翅の温度分布を調べました。すると、翅の温度は均質ではなく、生きた細胞の部分から放熱していることが明らかになりました。そして、生きた細胞の部分は、そのほかの膜の部分よりも常に低い温度に保たれていることがわかったのです。こういった温度の調節には、主に鱗粉が関わってるようです。

 さらに、翅の温度調節に関わるような行動も明らかになりました。翅の生きた細胞にレーザーを当てると、次第に加熱されていきます。このとき、温度が40℃を超えると、チョウは体の方向を変えたり、あるいは翅を動かしたりして、翅が過熱することを避けるように行動しました。つまり翅は温度センサーとしても働くことがわかったのです。

 今回の研究により、チョウの翅が、生きた細胞に支えられた器官であることがわかりました。しかも、翅には温度を感じとる、放熱する、そして体液を翅全体に循環させるという、とても多くの働きが備わっていたというわけです。

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記事執筆:保谷彰彦
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