[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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社会システムデザインで「より良い社会」を創る

(2019年1月16日)

社会システムの進化を促す構造図
出典:吉川弘之『研究開発戦略立案の方法論― 持続性社会の実現のために ―』(東京:科学技術振興機構 研究開発戦略センター,2010)の図2 持続的進化のための科学者の役割をもとに作成

 2016年に内閣府が発表した第5期科学技術基本計画の中に盛り込まれた「Society 5.0」。分かりやすく言うと、情報社会の次に来る未来の社会のことです。その社会では、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)といった最新の情報技術を使って、経済発展と社会問題の解決を両立し、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送れるようになることを目指しています。

 では、Society 5.0における、交通システム、都市システムといった社会システムはどのようにデザインすればよいでしょうか。「どういった社会が、より良い社会なのか」ということに関する意見は人によって異なります。そのため、社会システムに求めるものも人によって異なるでしょう。社会システムをデザインする際には、一人一人が求めるものをすくい上げて、価値多様性を維持する必要があります。また、技術の革新、社会ニーズの変化に応じて、社会システムもバージョンアップすることが求められます。図は、JST研究開発戦略センター(CRDS)の前センター長である吉川弘之先生が「研究開発戦略立案の方法論-持続性社会の実現のために-」の中で、持続的進化のための科学者の役割として示した図を元に作成したものです。この図は、「社会を観察して、分析し、社会システムを設計・構築して社会に提供する、ということをループのように繰り返すことで社会システムを進化させる」ということを表しています。社会を計測するところから始めることで一人一人の要求に応える社会システムを実現し、ループ構造にすることで進化を促しています。

 また、社会システムが従うべきものとして、法律、慣習といった制度や規範があります。社会システムを社会に適用するには、適切な技術だけでなく、適切に法に従う、場合によっては適切な法を作るといったことも必要になります。技術面と制度面を相互に検討しながら、社会課題の解決のための社会システムを構築し、進化させていくプロセスを考える必要があります。

 研究開発戦略センターでは図の考え方を踏まえて、相互進化的社会システムデザインという戦略プロポーザル(研究開発戦略の提案)を準備しています。本プロポーザルでは、以下の5つの観点で提案をまとめる予定です。
 ①現象観察でのデータ収集にICTを活用し、プライバシーに配慮しながらデータを集める技術
 ②集めたデータを分析して、社会の規範や法律、経済的・技術的制約などを考慮して要件を
  明確化する技術
 ③社会システムの設計・構築時に事前の確認を可能にする、人文社会科学の知見を入れた社会
  シミュレーション技術
 ④行動するときに規制との適合性を自動で確認することで法の遵守を容易にする技術
 ⑤実証実験を推進する際の、技術者と事業者と行政をつなぐコーディネータなどの実施体制

 2030年までの達成を求められているSDGs(持続可能な開発目標)の目標11:「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」にも資するSociety 5.0を実現するには、相互進化的社会システムデザインのフレームワークを適用した様々な社会システムを実現し、進化させていくことが必要でしょう。

【参考資料】
・内閣府 Society 5.0
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
・国際連合広報センター 2030アジェンダhttp://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/
2030agenda/

・科学技術振興機構 研究開発戦略センター「研究開発戦略立案の方法論 ~持続性社会の実現のために~」、CRDS-FY2010-XR-25(2010年6月)
https://www.jst.go.jp/crds/report/report07/CRDS-FY2010-XR-25.html

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
システム・情報科学技術ユニット フェロー
青木 孝

青木 孝(あおき たかし)
 1985年3月東京大学大学院情報工学専攻修士課程終了。専門は、プログラミング言語やオペレーティングシステムなど、計算機のソフトウェア。富士通入社。以来、富士通研究所にてロボットのソフトウェア/ハードウェアの研究・開発に従事。その後、スーパーコンピュータ「京」の開発やユビキタスプラットフォーム所長、研究所技術の事業化を担当。2018年から科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。