[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

二酸化炭素をどうするか?

(2018年2月15日)

 地球は、宇宙から見ると閉じた物質系であり、エネルギーの出入りとしては太陽光の入射と放熱だけとなります。そういった閉鎖系における物質とエネルギーの未来を考えると、我々は閉じた殻の中にある物質だけを基に、太陽のエネルギーを用いて生きていかなくてはいけないことは自明です。これまでは、長い年月の地球の営みで得られた地中の化石資源を頼りに物質とエネルギーを生み出し、燃焼の後には二酸化炭素として大気に放出するということを続けてきました。結果として大気中の二酸化炭素が徐々に増加し、温暖化の原因の一つとなっていると言われています。
 このような中で近年、二酸化炭素を回収して減らそう、再利用しよう、という研究開発が注目されつつあります。これにはいくつかの選択肢がありますが、減らす方法、増やさない方法、却って増やしてしまう方法、に分類して考え方をまとめてみます。

 まず二酸化炭素を減らすことが出来る方法は4つあります。1つ目は、煙突などから出る前に二酸化炭素を分離回収して埋めてしまおうという考え方で、古くから存在します。これはCarbon Capture and Sequestration (あるいはStorage)、略してCCSと呼ばれますが、何も付加価値を生み出さない方法であり、自然界への影響についても未知数です。2つ目は、太陽のエネルギー(再生可能エネルギー)で二酸化炭素を分解して、炭素と酸素に転換し、炭素は埋めてしまおう、という考え方です。3つ目は、二酸化炭素で植物を育てて(バイオマス)、それを炭化して埋めてしまい、残ったガスなどを燃料として用いよう、という考え方です。いずれの考え方も炭素として地中に埋める分だけ、大気中の二酸化炭素を減らせることになります。あとの1つは大気中の低濃度の二酸化炭素を直接分離回収する方法を開発し、これをそのまま地下に埋めるか、分解して炭素を作って埋めるという考え方ですが、現時点では大気から回収する技術が未成熟です。

 次に、二酸化炭素は直接は減りませんが、再生可能エネルギーと二酸化炭素を組み合わせて用いる(Carbon Capture and Utilization、CCUと呼ばれます)ことで、二酸化炭素のこれ以上の放出は抑えよう、という考え方があります(上図参照)。この場合、大気中の二酸化炭素は増えも減りもしませんが、化石資源を使わなくて済む分だけ、新たな放出は止まります。具体的には、再生可能エネルギーで水を電解(分解)し、回収した二酸化炭素と反応させて合成ガス(水素と一酸化炭素)を経由するなどして、メタンや軽油、メタノールなどに転換する、というものです。これらの生成物は、従来の化石資源の時代のインフラ(パイプラインやタンクなど)をそのまま使えるという利点があると考えられています。ただし、燃焼すると等量の二酸化炭素が再度放出されるので、化石資源時代からの脱却に向けた橋渡しとしては良い方法になりますが、二酸化炭素削減にはなりません。仮にメタンやメタノール等のエネルギーではなく化学品に転換したとしても、ライフサイクルは車で11年程度、一般消費財だとさらに短いため、最後にガス化されるなどした後に燃やされてしまえば二酸化炭素が等量放出されることは同じです。燃やさずに埋め立てた場合もバクテリアによって分解されれば同じです。

 最後に、二酸化炭素を却って増やしてしまう間違った考えとして、化石資源と二酸化炭素を組み合わせた反応に利用しよう、という考え方を見かけます。しかしどのような組み合わせであれ、化石資源と二酸化炭素を反応させても、決して二酸化炭素の削減にはなりません。例外的に、別の反応から出てくる廃熱を利用して吸熱反応(熱を加えて反応が進むもの)を行った場合は、本来そこで必要になるはずだったエネルギーを削ることができるため、その分の二酸化炭素削減が期待できます。しかしながら、二酸化炭素を活性化出来るような吸熱反応で、廃熱温度である200℃前後で進む反応は知られていません。化石資源と二酸化炭素を組み合わせると、単純に元の化石資源を燃やすよりも余分に(エントロピー増大分に対応するエネルギー分だけ)二酸化炭素が排出されます。従って、これをやるのであれば、むしろ限りある化石資源を効率よく有効に使ったほうが良いと考えられます。

 人間が、その活動の一環として、化石資源を掘り出して大量に消費してきた結果として、大気中にそれと炭素換算で等量の二酸化炭素が放出されるのは自明です。二酸化炭素を減らそうと思えば、出さないようにするか、出してしまったものを回収して埋めるかしかありません。
  人類として間違った方向に進まないために、科学者や政策決定者はもちろん、その橋渡しを担う私たちも、常にサイエンスの基本に立ち返って考えることが肝要だと思っています。

 

【参考資料】
1) JST CRDS研究開発の俯瞰報告書「エネルギー分野(2017年)3.25 触媒」
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/FR/CRDS-FY2016-FR-02/CRDS-FY2016-FR-02_10.pdf

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
環境・エネルギーユニットフェロー
早稲田大学先進理工学部 教授
関根 泰

 

関根 泰(せきね やすし)
 1993年 東京大学工学部卒業、1998年 同博士課程修了(博士(工学))、同年同助手、2001年より早稲田大に移り、助手・講師・准教授を経て2012年より教授。2011年より科学技術振興機構 研究開発戦略センターフェローを兼務。