[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

バイオリソースなくして、研究なし

(2017年3月01日)

 爆発的に増加する人口を支える食料の不足、エボラ出血熱やHIV等の感染症、化石燃料の消費による地球温暖化等の地球規模の課題、加えて、老化に伴うがんや痴呆等の疾病、介護、社会的・財政的負担等の超高齢化社会の我が国固有の課題も存在します。これら、世界がそして我が国が直面する課題の解決に生命科学が大きな貢献を果たすものと期待されています。生命科学がインパクトのある成果を挙げるためには、最先端の科学技術、例えば、ゲノム情報、ゲノム編集、AI(人工知能:Artificial Intelligence)等を積極的に取り入れ、基礎から応用まで幅広い研究を推進する必要があります。生命科学では多くの実験科学と同様に、研究材料(バイオリソース、生物遺伝資源)を必要としています。優れた材料が優れた成果を生み出します。まさに、「バイオリソースなくして、研究なし」です。この点について、我が国の「科学技術基本計画」の第1期(平成8年度~)から第5期(~平成32年度)まで、バイオリソースは、国が一貫して知的基盤として整備していくものと位置づけられています。理化学研究所バイオリソースセンターは、第2期科学技術基本計画の「世界最高水準のライフサイエンス基盤整備」の目標に沿って、平成13年に設立されました。さらに、平成14年には、文科省が「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)」を開始しました。バイオリソースセンターは、その中核としてプロジェクトを牽引してきました。

 バイオリソースには、ショウジョウバエ、カイコ、メダカ、イネ等様々な生物が存在します。実際、NBRPは29種類の主に学術研究用のバイオリソースを対象にしています。それらの中で、バイオリソースセンターでは、大きな研究コミュニティが存在する重要かつ集約的に実施することが有効な5つのリソース、実験動物マウス、実験植物シロイヌナズナ等、研究用微生物、ヒト及び動物由来の細胞、ヒト、動物及び微生物由来の遺伝子、そして、それらに関わる情報を整備し、国内外の産官学の研究者に提供しています。

 整備しているリソースの中には、山中伸弥先生が開発したiPS細胞、大村智先生が発見した抗寄生虫抗生物質エバーメクチン生産菌、大隅良典先生が発見したオートファジーに関連したマウス系統や細胞等、日本が誇るべきリソースも含まれており、活発に利用されています。これまで、180,000件を超えるバイオリソースを国内では約6,800機関、海外では68ヶ国4,800機関へ提供してきました。

 さて、バイオリソースセンターの母体である理化学研究所は、1917年に設立され、今年で100周年を迎えます。特定国立研究開発法人として、今後も至高の科学力で国家的、社会的要請に応える戦略的研究開発とともに、世界最高水準の研究基盤の開発・整備・共用・利活用研究を推進することとしています。バイオリソースセンターは、理化学研究所の重要な一翼を担っています。

 バイオリソースセンターでは、来る4月21日(金:午後)、22日(土:全日)にキャンパスを一般の皆様に公開します。バイオリソースの実物をご覧下さい。ご来場をお待ちいたしております。また、つくば科学万博記念財団・エキスポセンターが主催する「おとなのためのサイエンス講座」では、今夏以降のプログラムに当センターの数名の研究員が講師として参加することを計画しています。準備ができ次第ご案内いたしますので、こちらへも奮ってお申し込み下さい。

バイオリソースセンターホームページ:http://ja.brc.riken.jp/

 

国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソースセンター長
            小幡 裕一

小幡裕一(おばたゆういち)
国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソースセンター長
1972年 東北大学大学院理学研究科博士課程入学
1975年 理学博士(東北大学)
1973年 米国スローン・キャタリング癌研究所留学
1985年 愛知県がんセンター研究所免疫学部 室長
2001年 理化学研究所 バイオリソースセンター リソース基盤開発部長
2005年より現職